三国志外伝 曹操暗殺

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曹操暗殺 壁紙

曹操暗殺 ~三国志外伝~ その時代背景と英雄・曹操の魅力
曹操最後の1年を描く、新たな三国志映画

いまや小説・漫画・演劇・ゲームなど、日本のあらゆるジャンルに登場する「三国志」。本場中国に勝るとも劣らぬ人気を誇り、映画も『レッドクリフ』や『三国志英傑伝 関羽』などが公開になるたびに話題をさらってきた。

これまでの三国志映画といえば、諸葛孔明・関羽などを主役にしたものが多かったが、本作『曹操暗殺 ~三国志外伝~』は、名優チョウ・ユンファが演じる曹操にスポットをあてた作品として注目を集めている。

題名の通り、本作は「曹操暗殺」をめぐる物語だ。時に西暦220年、曹操は関羽との戦いを終えて荊州(けいしゅう)から許都(きょと)へ帰還する。しかし、安心はできなかった。三国時代で最強の国である「魏」の礎を築いた曹操には敵も多く、常にその刺客に命を狙われていたのである……。

曹操の暗殺計画は創作ではなく、正史『三国志』および小説『三国志演義』の両方に記された出来事。また、220年は曹操が史実において「病死」した年でもある。本作はこの「曹操最後の1年」を、史実に基づきながらも大胆にアレンジして描いているのだ。

しかし、本来の三国志は、後漢から三国時代(180~280年ごろ)の人物伝を集めた歴史書(正史)であり、勧善懲悪の物語ではない。正史『三国志』の著者である陳寿(ちんじゅ)は、曹操を「非常の人、超世の傑」(常人離れした才の持ち主で、時代を超える英雄)と評している。その記述を読むと、知略・軍才に優れただけでなく、詩人であり文化人の一面も持っていたことがわかる。

日本酒の原型ともいえる酒の造り方を記した文書や、有名な『孫子の兵法』にも注釈を加えて後世に残した。一方で、宴会ではハメを外して衣服を汚したり、寝ている部下に衣服をかけてやるなど人間くさい記述もあり興味深い。

日本の三国志ファンの間では昔から曹操の人気は高い。小説版のスタンダードともいえる吉川英治『三国志』では清濁あわせ持つ魅力的な人物に描かれているし、曹操が主役の漫画『蒼天航路』が大人気になるなど、単なる「悪役」の枠にとどまらない英雄と見る人が多いのだ。中国でも、2012年にドラマ『曹操』(全41話)が制作されるなど、最近とくに曹操の人物像が見直されている。

その中国では2009年に「曹操の墓」とみられる遺跡が発見され話題を呼んだ。内部には曹操とその妻らしき遺骨のほか、若い女性の遺骨があった。「その発見に着想を得たことが、映画制作の引き金になった」と本作の監督チャオ・リンシャンが明らかにしている。また、曹操の墓は銅雀台(どうじゃくだい)遺跡の近くで発見されたことも興味深い。銅雀台は曹操が建設した豪華な宮殿。本作の重要な舞台でもあり、曹操がこの宮殿で人生の苦悩を側室に漏らすなど、単なる野心家にとどまらない一人の人間としての姿をさらけ出す。

本作のヒロインは中国の女優リウ・イーフェイだが、彼女とコンビを組むのが日本の俳優・玉木宏であることも注目したい。玉木は朝廷に仕える宦官(かんがん)の穆順(ぼくじゅん)を演じ、刺客として曹操の命を狙う重要な役どころ。『レッドクリフ』でも中村獅童が出演して話題になったが、今回も国境を越えた三国志熱の高まりに一役買ってくれることだろう。

曹操暗殺劇場画像

「三国志映画クロニクル」

レッドクリフ

今までに日本で公開された三国志映画といえば、まず『レッドクリフ』を挙げなければならないだろう。中国映画史上最高額といわれる百億円を注ぎ込んで制作された、ジョン・ウー監督によるアクション作品である。全2部構成となっており、前編の『レッドクリフ PartI』が2008年、後編の『レッドクリフ Part II -未来への最終決戦-』が2009年に公開された。『レッドクリフ』とは原題の「赤壁」を英訳したもので、『三国志』のハイライトともいえる重要な合戦「赤壁の戦い」が舞台になっている。

いきなり赤壁から始まるのではなく、劉備軍が曹操軍に追撃を受ける「長坂坡の戦い」に始まり、諸葛亮(孔明)が使者として孫権の陣営に乗り込み、劉備と孫権が同盟を組んで曹操の大軍に立ち向かっていくという、大まかなストーリーは史実に基づく形で展開。大船団がぶつかり合うなど迫力の戦闘シーンのほか、曹操が美女・小喬に執着したり、孔明と周瑜が対立しながらも互いの実力を認め合うといった、愛と友情の物語が見事に描かれていた。この『レッドクリフ』は、今まで三国志を知らなかった多くの人たちにその存在を知らしめ、一時的にせよ三国志ブームを巻き起こしたという点でも、意義のある作品といえる。

超マイナー? 昭和から平成初期の三国志映画

さて、冒頭で超大作の話をしたところで、あまり知られていないマニアックな作品の紹介もしてみたい(本当はこっちが本題かも)。今から30年前の1984年(昭和61年)、日本で初めて公開された三国志映画が『三国志外伝・華佗と曹操』(原題:曹操与華佗)である。おそらく三国志ファン10人に聞いても1人ぐらいしか知らないであろう幻の作品だ。伝説の名医・華佗(かだ)が民衆に治療を施す姿や、彼が東洋で最初に開発した麻酔薬を使った切開手術の様子なども描きつつ、曹操との緊張した関係を描く。何しろ30年前の作品であり、タイトルから分かる通りマニアックな内容だったので、あまり話題にならなかった。日本ではレンタルビデオ版があったが、DVD化はされていない。しかし、日本初上陸の三国志映画が曹操陣営の物語であったことは、今回の『曹操暗殺』との不思議な縁を感じる。

昭和から平成に変わったばかりのころに劇場公開されたのが『三国志 第1部・大いなる飛翔』(1990年)。「桃園の誓い」から「赤壁の戦い」までを1本で描いた意欲的な実写映画だったが、まるでダイジェストを観ているような忙しい作品だった。それらを130分で描くとなると、どうしても慌しくならざるを得なかったようだ。「第1部」とあるように続編の話もあったようだが、残念ながら日本には第1部しか上陸していない(現在『三国志・武将列伝』としてDVD化されている)。

その2年後、日本で制作された劇場アニメ映画『三国志』が登場する。「第1部・英雄たちの夜明け」「第二部・長江燃ゆ!」「完結編・遥かなる大地」という3部作で、1992年から1994年まで3回に分けて劇場公開された(製作:シナノ企画、配給:東映)。曹操=渡哲也、劉備=あおい輝彦、関羽=青野武、周瑜=屋良有作など、主役級の人物は非常に豪華なキャストが起用されていた。第1部(呂布の死)はかなり原作に忠実だが、第2部の途中からオリジナルエピソードが盛り込まれ、がらりとトーンが変わる。終盤は諸葛亮と関羽の娘・鳳姫によるオリジナルストーリーとなっており賛否両論を呼んだ。一方で、曹操が陳宮や関羽との別れを惜しむシーンなどはかなり丁寧に描かれていた。谷村新司の名曲「風姿花伝」がエンドロールを飾る印象深い作品だった。

21世紀になってから公開された三国志映画

その後、三国志映画は長らく公開されないまま、冒頭の『レッドクリフ』公開へと至ったのだが、同時期の2009年に『三国志』(原題:三國之見龍卸甲)という趙雲を主役に据えた映画が公開されていたことはご存じだろうか? 名優アンディ・ラウが趙雲に扮し、劉備軍に入隊するところから、戦いに明け暮れて死ぬまでを描いた作品。三国志映画では初めて1人の武将にスポットが当てられた。趙雲が活躍しない「黄巾の乱」や「赤壁の戦い」などはバッサリ省略されてテンポよく進む。趙雲の兄貴分として羅平安なる架空の人物が登場するが、これを香港映画界の巨匠サモ・ハン・キンポーが熱演している。彼は最初にオファーされた張飛役を断ってまで、この役を希望したというから興味深い。

そして2011年には、『三国志英傑伝 関羽』が公開。「関羽千里行」における五関突破の場面にスポットをあてた作品で、関羽の武勇や忠義はもちろんだが、彼に惚れ込んだ曹操の熱意、そして意外にダークな献帝の活躍も見どころといえる。関羽を演じるのは、香港を代表するアクションスターであるドニー・イェン。彼は身長が170cmと小柄で、劇中でヒゲを切り落としてしまうので、従来の関羽とは一線を隠した容貌なのが最大の特徴といえるかもしれない。原作では雑魚キャラだった五関の守将たちがかなりの強敵で、いっそ夏侯惇や徐晃なんかに変えてしまっても良かったんじゃないかと思ったぐらいだった。この2作はブルーレイやDVDで入手しやすいので、ご興味があれば観ていただきたく思う。

それから3年を経て公開される『曹操暗殺~三国志外伝』(原題:銅雀台)は、これまで敵側として描かれることの多かった曹操をメインキャストに据えた作品という点でも興味深い。『レッドクリフ』のような派手さや活劇的要素は少ないが、それだけに「人間ドラマ」に重点が置かれているという点に注目して欲しい。

三国志 魏

上永 哲矢(うえなが てつや):歴史コラムニスト

1972年、神奈川県生まれ。歴史コラムニスト、フリーライター。三国志歴30年の 三国志愛好家。
『男の隠れ家』『歴史人』などの各雑誌やムックで歴史や旅のコ ラムを連載。ドラマ『三国志 Three Kingdoms』および、 ドラマ『曹操』の公式 ブログ、『チャンネル銀河 歴人マガジン』などWEB上でも執筆活動中。
歴史 朗読CD「城物語」のシナリオ執筆、歴史講座・三国志フェスなどのイベント企画・運営にも携わる。
雅号/哲舟